シロヘリミドリツノカナブンの飼育法


★はじめに★

シロヘリミドリツノカナブンをご存知でしょうか?(以下本種と表記)
ケニア・タンザニア以南に多く生息するアフリカンなカナブンです。
実に一般的かつ普遍的な種類で、安いものでは成虫のつがい(ペア)で1,000円程度で購入できる、
「安虫」「駄物」という印象をもつ人もいる。そんな種類です。
しかし一般的で普遍的だからこそ、実のところかなり奥の深い種類であるとも知られています。
その奥深さとなっているのが本種のバリエーションの豊富さや未知の部分の多さではないでしょうか?
カラーバリエーションや特徴的な白い模様のパターンは他のカラフルな虫に引けを取りません。
また所謂「色虫」の中では一番と言っていいほど安定して殖える上、丈夫です。

カブクワ業界で脊髄反射的にタブー視される「亜種間交雑」もシロヘリでは問題とされません。
なぜなら原種は原種で保存していけばいいし、「品種化」という観点なら亜種同士の掛け合わせも
有意義に活かしていくべき。だとシロヘリ愛好家は賢いのでちゃんと理解しているのです。
その飼育の容易さや安定感、自由度も相まって、好きな色を作出するための掛け合わせの探求や、
オオクワガタやヘラクレスのそれにも劣らないレベルの系統管理がされるまでに
シロヘリ愛好家の中では人工的な飼育が進んでいるのです。
しかし、未知の部分も多いのです。ということはまだやり込む要素もあるということ。
一見「飼育方法など分かりきっている」と思われる本種ですが、
飼育品で54mmを超える個体を羽化させた人はほぼいないでしょう。
野外において1頭の♀からは最大で200個もの卵が得られるという説がありますが
飼育においてそこまで産卵させれた人もほぼいないでしょう。
それは「まだシロヘリの飼育は発展途上」ということです。
結構な数の種類で、野外最大より飼育最大のほうが大きな昨今。
意外と本種はミステリアスなのでは?と思います。
しかし飼育そのものは難しくなく、色柄は遺伝で決まるので気に入った親を用意すればいい。
より高度な飼育を求める場合はサイズに注目してみたり、自ら色柄の厳選に着手するのも。
飼育者の求めるレベルやハードルに合わせて目標設定ができる、いい虫です。
本ページが本種の飼育の参考になれば幸いです。
さあ、シロヘリの世界へようこそ!



★成虫の飼育(産卵)★

本種は産卵させることがとても簡単な種類として知られており、
実際に多くのカブトムシ・クワガタと比べて簡単な産卵セットで多くの卵を産みます。
産卵数は前述したとおり最大200個程度かと思いますが、まず現状難しいです。
とりあえずは80個を目標に飼育するといいでしょう。筆者の最高記録としては126個です。
本ページでは産卵セットから幼虫の孵化を待たずに卵を回収する「採卵」を紹介します。
というのも本種の♀は小ケース相当の容器でおおよそ40個程度産卵すると一旦産卵をやめます。
これは♀がマット内の卵の密度を何らかで感じ取って産み過ぎないようにしているのだと考えています。
よって定期的に採卵することでより多くの卵を得よう。ということです。
温度管理は産卵~孵化まで26~28℃が適切です。
この温度管理は季節によっては空調がないと難しいため、常温もしくはそれに近い管理の場合は
初夏か晩夏に産卵セットを組むのが簡単でしょう。

産卵セットに使う容器としては、コバエシャッターの小が大きさと通気の面で丁度いいです。
大量に産卵セットを組む場合等、コストを抑えたい場合には似た大きさの市販容器を加工して代用できます。
オススメはダイソーの「パンやさん」で、蓋に直経20mm程度の穴を二つ空けてタイペスト紙や不織布等の
フィルターを貼り付けると丁度よい通気量になります。
この際「パンやさん」の蓋は軟質性なので電動ドリル等がなくてもカッターで穴を空けることができます。
フィルター部もコーヒーフィルター等で代用可能です。
(タッパー容器の宿命として、個体差で蓋が緩いものもあります。そうした場合はテープで留めましょう)

産卵に使用するマットは色々ありますが、「Rush レギュラーマット」が便利です。
このマットは水分調整をせずにそのまま本種の産卵に使用でき、幼虫飼育でも多用するため
各ステージでの用品の共有化ができ、ローコストです(マット自体も安い)
ただし、若い廃菌床マット全般の特徴として再発菌しやすいロットに当たることがあります。
気になる場合は未加水のままヘラクレス等に食べさせて軽く使用済にしてから使用するか、
産卵~卵管理の時期だけ「月夜野きのこ園 完熟Mat」等水分量が似ていて安定したマットに置き換えると安心して飼育できます。

余談ですが、一度気になってわざと菌の強いロットのレギュラーマットで卵を管理してみたことがありますが
特に問題なく9割程度が孵化しました。初2齢幼虫も問題なく食べ、菌の回っていないマットと加齢にも差がありませんでした。
ただ、筆者の飼育環境では完熟Matや使用済のレギュラーマットが常にストックされている状態なので
産卵~卵管理には主にそちらを使っています。
ただ幼虫飼育においては完熟Mat<<使用済のレギュラーマット<レギュラーマットといった具合で明らかに成長差が出るので
その場合は孵化したら早い段階でレギュラーマットに切り替えてしまうのがいいでしょう。

マットを容器の7分目まで固めずにふんわりと入れ、鉢底ネット等の転倒防止材とゼリーを入れれば
産卵セットの完成です。諸説ありますが本種は産卵時に♂♀同居させたほうが多く産む傾向があります。
この際、事前に♂♀を狭い容器で同居させ交尾させておくと♀がすぐ産卵できるのでオススメです。
また本種はよく動き回るので、転倒防止材は多めに入れたほうが個体の摩耗を防げます。
餌は昆虫ゼリーが衛生的でオススメです。今のところ本種においてゼリーの銘柄による産卵数変化は確認できていません。
観察した限り、一番食べる時期の♂♀ペアで1週間に16gゼリーを1個半程度消費するようです。
無駄なくゼリーを使うなら半分に分割したゼリーを3欠片入れておくといいでしょう。

産卵セットの割り出しは1週間毎に行い、ゼリーはそのタイミングで補充・交換しましょう。
その際、マットの湿気が飛んでいた場合には霧吹きで元通りに加湿するのが望ましいですが、湿度の感覚が掴めない場合は
無理に加湿する必要はありません。入れたゼリーの水分や成虫の排泄で加湿されるのである程度湿度は維持されます。
産卵セットの割り出しはとても簡単で、産卵セットの表面から転倒防止材とゼリー、成虫を取り除き、
大きなタライ等に産卵セットの中身をひっくり返して卵を探します。(成虫は飛ぶので蓋付き容器に入れておきましょう)
このときよく観察すると、マットが軽く押し固められてそこに卵が産み付けられているのが確認できます。
(♀がどうしてもマットを気に入らない場合、適当にばら撒く形で産卵されている場合もあります。)
本種がばら撒き産卵というのは既に過去の情報のように思います。
きちんと1週間ごとに割り出した場合、卵の形状は楕円形で比較的産卵直後のものが多くなります。
この時期の卵はあまり丈夫ではないため丁寧に回収していきます。
卵を回収する際には小型のプラ製スプーンを使用すると卵へのダメージを抑えることができます。
金属製のスプーンはあまり良い影響を及ぼさないようなので避けるのが無難でしょう。

回収した卵は200ccのプリンカップで8個ずつ保管します。(リスパック クリーンカップを使用しています)
プリンカップの3分目程度までマットを入れ、卵同士が近づき過ぎないよう卵をそっと置きます。
卵を8個置き終わったらプリンカップの内側の線までふんわりとマットを入れて蓋をします。


プリンカップに置かれた卵。

こうして回収した卵入りのプリンカップはそのまま35日ほど管理します。35日が経ってからひっくり返すと
孵化後にマットを食べて少し膨らんだ初齢幼虫が出てきます。
実は早い幼虫だと採卵後24日程度でも孵化していたりしますが、孵化直後の幼虫は繊細なためここでは35日としました。
孵化した幼虫を取り出したら幼虫飼育に移ります。



★幼虫の飼育★

幼虫飼育の容器は産卵セットと同様、コバエシャッターの小か前述の加工したパンやさんを使用します。
本種は多頭飼育が可能で、上記の容器であれば1個につき幼虫8頭が丁度いいです。
(本ページではパンやさんで幼虫8頭を飼育するものとして紹介していきます)
温度管理は可能な限り20℃を下回らないほうが生育がよく、15℃を下回ってしまうと死亡する個体が出てきます。
このため冬場の温度管理は少し気をつける必要があります。
逆に温度の上限は高く、32℃程度であれば問題なく生育することが確認されています。
ただしそういった超高温で管理した場合にはマットが再発酵してしまうことも考えられるため注意が必要です。
マットを切らさずきちんと管理した場合、温度が低いと幼虫期間が長くなり、高いと幼虫期間が短くなる傾向があります。
筆者は26℃で管理しています。

幼虫飼育に使用するマットは前述のレギュラーマットがいいでしょう。
その他にはよく言われるように他種に一度使用した廃菌床や廃マットを食べさせてもいいでしょう。
ただし使う廃菌床や廃マットの水分量が本種に適しているかは判断が必要なため、
飼育に慣れるまでは新品のマットを使うのも手です。(新品のレギュラーマットと同様の水分量が望ましいです)
容器の8分目程度までマットをふんわりと入れ、幼虫を投入します。
孵化した初齢幼虫を投入してから3~4ヶ月するとマットの上層~中層が幼虫の糞だらけになります。
このタイミングでマットを全交換もしくは糞を取り除いて継ぎ足しします。
万が一、マットにコバエ等が湧いてしまっている場合は全交換しましょう。
全交換の際は新しい容器に新しいマットを8分目程度までふんわりと入れ、前の容器から幼虫のみを移し替えます。
雑虫対策が万全な場合は継ぎ足しをオススメします(筆者の環境では雑虫は湧かないので継ぎ足しです)
継ぎ足しの場合は、交換が必要な幼虫の容器をそっと傾けて下層の食べ残しを巻き込まないよう、
上層~中層の糞だけを取り除きます。糞を取り除いたら新しいマットを容器の8分目までふんわりと
継ぎ足して継ぎ足し交換の完了です。交換・継ぎ足しは3~4ヶ月毎に行います。
多くの場合で2~3回の交換を経て繭玉を形成しますが、特に3回目の交換は必要のない事が多いです。
採卵日から逆算したおおよその孵化日から6~8ヶ月経過した辺りから早い系統だと繭玉形成が始まります。
2回目以降の交換・継ぎ足しの際には事前に容器側面を確認して幼虫の姿が複数確認できるか
確かめてからのほうがいいでしょう。繭玉形成が始まった容器では側面に確認できる幼虫の数が減ります。
1~2頭しか見えない場合は用心したほうがいいです。万が一繭玉を壊してしまうとよろしくないので
よく観察して管理していきましょう。繭玉形成後も管理温度は幼虫飼育と同じで大丈夫です。
繭玉を形成してからおおよそ2ヶ月(繭玉形成~前蛹で1ヶ月、蛹で1ヶ月)すると羽化してきます。
羽化した成虫が自力で繭玉から脱出してマットの表面に出てきたタイミングで回収するのが羽化不全が
少なくなると思いますが、脱出を見逃してまたマットに潜ってしまったり、容器内で新成虫が勝手に
交尾してしまったりとデメリットも多いです。そのため多くの人が繭玉の形成を察知すると繭玉を
マットから掘り出して管理すると思われますが、繭玉形成直後の脆いタイミングで掘り出してしまうと
繭玉が壊れてしまうので繭玉の形成を察知しても1ヶ月程度我慢してから掘り出したほうがいいです。
また掘り出した繭玉をマットの表面に転がして管理することも多いと思われますが、ただ転がしておくと
乾燥で繭玉が萎縮して羽化に影響を及ぼすこともあるのでマットに半分程度埋めておくといいです。
繭玉を管理する際にはどちらが頭部か分からないと思うので縦置きではなく横置きがオススメです。
繭玉を掘り出してから1ヶ月程度経過したら繭玉の先端部に慎重に小穴を空けて中を覗き、
羽化が確認できた場合は繭玉から成虫を割り出してみましょう。


繭玉から割り出した新成虫。

こうして割り出した新成虫は各々の羽化日や管理温度によって差はありますが26℃管理で2週間程度すると
ゼリーを食べ始めるようです。羽化直後からゼリーを与えてもカビが出るだけで生体には良い影響を
及ぼさないので繭玉から割り出してから数日は霧吹きで水分だけ与えて管理するといいです。
新成虫はゼリーを食べ始めた頃から交尾と産卵が可能になります。好みの♂♀を掛け合わせて
産卵させてみましょう。余談ですが成熟した♂からは桃の芳香剤のような香りがします。
是非一度嗅いでみてください。



★もっと深く楽しむシロヘリ★

☆国内のシロヘリに純血はいない?☆
本種の国内生体はそのほとんどが亜種間交雑をしたハイブリッドだと思われます。
もしかすると個人輸入等で持っている方も居るかもしれませんがあまり考えられないでしょう。
また過去にはジンバブエ等から原名亜種が輸入されていますが現在では流通が皆無です。
そういった点から国内の個体は、近年まで輸入されていた産地であるタンザニアからの個体を
ルーツに累代されてきたものと考えられます。(ジンバブエ産等も混ざっていると思いますが)
タンザニアの主産地であるウサンバラ山は亜種境界にある地で、原名亜種と亜種oberthueriの双方の
特徴をもつ個体が得られています。つまり野外で既に混ざっているということです。
そうした背景的な要素も知っておくと本種をより楽しめるでしょう。


上の個体は両方とも近い時期にタンザニアから輸入された個体をルーツとしている。


☆シロヘリの色厳選☆
本種の色厳選は着目する点を少し増やすとより簡単に行うことができます。
どこを見るといいのか?ずばり「ホログラム」反射色です。
本種の体色には大まかに2つあり、「個体の地の色」と個体を傾けたり光を当てたときに
見える「ホログラム」です。このホログラムは肉眼で見たときの印象に大きな影響を与えます。
例えば個体の地の色が青だとしてもホログラムが緑だと見た目は緑がかった印象になります。
こういった場合にはホログラムが青い個体を掛け合わせる等してホログラムを青くしてあげれば
完全に真っ青な個体が作れるというわけです。気にして見てみると面白いですよ。


こんな感じでホログラムは外見に大きく影響する。


☆シロヘリの頭角厳選☆
本種の頭角形状が系統によって異なることはご存知でしょうか?
実はその系統のハイブリッドの原初にある亜種によって頭角形状が変動しているのです。
図のようによく見るとかなり形状が異なり、国内の生体には中間的な頭角形状をもつものも多いです。
この形状も好みのもの同士を掛け合わせていくことで厳選できます。
ただし♀はその個体を見ただけでは遺伝上どんな頭角形状をもつのか分からないので兄弟♂等を見て判断します。
こうして頭角においても厳選累代してみるのも面白いでしょう。


原名亜種とそれ以外では頭角形状が異なる。どちらが好みかな?


☆筆者の飼育環境は?☆
ここまで読んで気になる方もいるかもしれない?筆者の飼育環境。
筆者の飼育環境ですが、4畳半の部屋に通年26℃になるよう空調を入れて管理しています。
飼育規模としましては1800頭程度置けるようにラックを配置し、常時1500頭前後の管理数になるよう意識して頭数を管理しています。
飼育に使っている容器は加工したダイソー「パンやさん」(産卵・幼虫飼育用)と
クリーンカップの200cc、430cc(卵・成虫管理用)です。
容器の規格を統一することで省コスト化し管理も簡略化しています。
マットは製品としてはレギュラーマットと完熟Mat、
その他に他種の飼育で排出される使用済の菌糸カスやレギュラーマットを使用しています。
マット類は必ず冷解凍を行ってから使用します。筆者の家でもしコバエが湧いたら虫ごと冷凍庫行きは堅いので必ず冷凍殺虫しています。
と、こんな感じで筆者は本種を管理しています。参考になれば幸いです。


※本ページの文章は2018年に配布した小冊子
「シロヘリミドリツノカナブン飼育所感2018」を元に
一部加筆・修正を加えたものになります。

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